最近、日本で格闘技業界が以前に比べると盛り上がっています。
なかなか大ブレイクとは言っていませんが、MMAのメジャーリーグとしてRIZINが始まり、かつての姿とはまるで違うとはいえ新生K-1も着実に進歩しています。
RIZINも新生K-1も、最近はチケットがソールドアウトになることもでてきました。こんなことからも、格闘技ファンの熱は徐々に温まってるんだろうなと感じます。
また新生K-1包囲網としてKNOCKOUT、RISEがジワジワと人気を獲得。またREBELSはMMAのパンクラスとグループ化とまたちょっと違った動きをしています。
国内MMAで言えば修斗、パンクラス、DEEPは変わらず興行を打っており、新たなムーブメントとしては女子MMAが市民権を得てきています。民法キー局によるテレビ地上波はRIZINだけですが、格闘技ファンのオアシスであるアベマTVでは格闘技専門チャンネルまで用意され、生中継や過去の興行、また格闘代理戦争や青木アワードなどのオリジナル企画番組も人気を博しています。
海外に目を向ければUFCが以前と変わらず世界トップですが、ベラトールもちょいちょいと話題のカードを差し込んでくるし、アジアを中心に展開していたONEも資金調達やDJやエディ・アルバレスなどの有力選手を獲得して存在感を増してきています。
少し前まで、格闘技を見ようと思ってもなかなか見る術がなかった(WOWWOWなんかの有料ケーブルテレビを契約すれば見れたけど)時代に比べると、今は格闘技ファンはいつでも何かしらの格闘技のコンテンツに気軽に触れることができるわけで、これはとても幸せなことだなあと思ったりするわけです。
今の時代をつないだ、DREAMとSRC(戦極)
ただ、今の盛り上がりが突然現れたわけじゃ勿論ないです。
かつて1990年台から2000年前半まで、日本格闘技は黄金時代を迎えていました。立ち技世界最高峰のK-1、MMA世界最高峰のPRIDE。名実ともに「世界最高峰」は日本にあったし、格闘技にとって日本は世界の中心地でした。人類最強を決めるのは、立ち技も総合も、日本だったのです。そして民放地上波キー局が競うように格闘技コンテンツを放送していた、今では考えられない時代。
ただ、いづれも突如として、ほぼ同時期に姿を消します。そして僕ら格闘技ファンは、好きだったものがジャンルごと消滅する、というトラウマを経験するわけです。
先日、RIZINで北岡悟VS川尻達也がメインをシめる「平成最後のやれんのか」が開催されました。山本KIDが亡くなり、宮田和幸が引退。そしてヒョードルがアメリカで秒殺され、いよいよ時代が完全に切り替わったのだなと実感させてくれました。
そんなタイミングだからこそ、現代に繋がる格闘技暗黒時代を振り返りたいと思ったのです。この時代から格闘技を見続けている人は、みんな仲間だ!!!多分!!!
PRIDE後の格闘技南北朝時代
PRIDEが消滅した後、MMAではPRIDEを引き継ぐ形で2つの興行団体が産声を上げました。K-1を運営するFEGと合流する形で誕生したDREAM。FEGがそれまで運営していたHEROSから秋山成勲や宇野薫、所英男、山本KID徳郁、JZカルバンなどが参戦。
一方PRIDE制作チームが合体した事で青木真也や川尻達也、アリスターオーフレイムやミルコなどが参戦。またリングコールにレニー・ハート、煽り映像には佐藤大輔&立木文彦というPRIDE世界観を完全再現。世間的な見え方ではPRIDEの正統派の後継者的ポジションで登場したのがDREAMでした。また地上波ではTBSがつき、民放地上波の露出が確立されたことで「国内メジャー」というポジションを獲得したのです。
一方、五味隆典と吉田秀彦といった大物を獲得したのが戦極。こっちはドン・キホーテというビッグスポンサーがバックについていたのが大きかったですね。DREAMのように地上波はつかなかったですが、「格闘技」を純粋に追求している感じはDREAMより強かった印象です。でも、如何せん見せ方が下手で地味な感じが拭えなかったな(笑)。
さて、この二団体はほぼ同じ時期にスタートしましたが、かつてのPRIDEのような世界観は作れず四苦八苦していました。
理由は単純で、PRIDEの有力選手を獲得したUFCがその存在感を年々倍増させていき、「世界最強はUFC」というイメージが定着してしまったからです。
PRIDE消滅の理由は反社会的勢力とつるんでたからと言われてますが、それが理由で格闘技ファンが格闘技を好きじゃなくなったとは思えないんですね。フジテレビではないにしてもDREAMはTBSで地上波放送してたわけですし、視聴する機会自体はあったわけです。
ただ、そこで行われている戦いに説得力がなかった。格闘技って結局、誰が強いのか?という非常にシンプルなテーマが原点ですけども、PRIDEの中でも特に人気の高かったヴァンダレイシウバやアントニオホドリゴノゲイラなど、外国人スター選手達はみんなUFCに行ってしまったわけです。ヒョードルだけはUFCにも日本にも行かず独自の道を歩んでいましたし、ミルコは律儀にもDREAMのリングにも上がってくれましたが程なくしてUFCに参戦。やはり大物外国人が参加していないとメジャー感が失われ、DEEPやパンクラスなどの国内格闘技団体との違いがはっきりしなくなってしまうのです。
結局、日本のリングが獲得出来たのは軽量級、つまり日本人大物ファイターだけでした。ただ、K-1から端を発して巻き起こった格闘技ブームは重量級が中心。「地上最強」という分かりやすい説得力はどうしても持ち得なかった。
そしてまずかったのがDREAMの旗揚げ興行、DREAM1。ライト級グランプリが開催されたのですがこの興行が塩興行でした。地上波ゴールデン華々しくスタートした筈なのですが…。
MMAとしてのテクニカルな攻防は民放地上波映えせず、僕らもまだ目が肥えていなかったのでデカイ男達の派手な殴り合いがなかったDREAMも戦極もどこか迫力に欠ける。そしていつも思い出されるのはPRIDE時代の栄光。
DREAMはスーパーハルクトーナメントなどを代表とした新機軸企画をやってみる一方、戦極はそこと対比して「本物」志向を打ち出していました。ただ、結局はどこか盛り上がりに欠けていた感は否めません。戦極では五味隆典を倒した北岡悟というニュースターが登場はしましたが、目立たないところで頑張ってる感が否めませんでした(すいません、僕は北岡選手、好きですけどね)。
何か戦極って、日本ファンの受け止められ方が今のONEみたいな気配がちょっとします。ONEの方が全然お金持ってますけど、RIZINとの関係性というかね。自分たちの正当性を主張しながら遠回しにRIZINのことを批判するONEと戦極、似てるんじゃないかなと(笑)。
で、僕はDREAMファンだったので、毎回興行には観戦しにいっていました。関東圏の大会はもちろん、大阪だろうが名古屋だろうが行きました。そして毎回、観客席が埋まっていないのを危惧していました。
戦極との対抗戦

そんなDREAMのハイライトはこの二つかなと思います。
まず突如としてぶち上がった2009年大晦日Dynamite!の戦極との団体対抗戦。この年は魔裟斗の引退試合がDynamite!興行としてラインナップされてて、戦極は単独で大晦日興行をやるはずでした。で、その興行の目玉は石井慧のMMAデビュー戦。相手として吉田秀彦という当時で言えばかなり注目度の高い試合だったはずでした。
ところが、何があったのかいまだに明らかになっていませんが戦極は単独開催を取りやめDynamite!と合流。石井VS吉田の試合のスライドは勿論、なんとDREAM対戦極の対抗戦が実現してしまったのです。
当時のファンからしたらこれはなんだか突然すんごい豪華なことになったな!!という印象でした。僕はチケット買って会場に行っていたんですが、石井のデビュー戦や魔裟斗の引退試合より、とにかくこの対抗戦!DREAM軍を大応援!!!ですよ!!!!!!DREAM先鋒の柴田が破れ「ふざけんな!!!!!」となり、その後のマッハ、高谷まで戦極軍にやられちゃったんですよね・・・。DREAMファンからすると信じられない光景を見ているようでした。
でもその後マヌーフ、所、川尻、アリスターと勝って迎えた大将戦が色々と問題になった青木真也VS廣田瑞人でした。動画がこれ。
僕は会場で見ていて何が起こったのかよくわかんなかったんですが、青木が勝ってDREAM軍が勝ちになってうおおおおお!と盛り上がったのを覚えてます。やっぱ団体対抗戦って燃えるんだなー!!!と。
ただ、これがその後色々物議を醸し出すことになったのでした。後味は悪かったけど、一応対抗戦はDREAM軍の勝利。よかったよかった。
この対抗戦が年に一度あれば、一つのストーリーができていった気もしますが、対抗戦はこれを最後に行われませんでした。
DREAMクライマックス、青木真也VS川尻達也
そして2010年のDREAM15で実現した青木真也VS川尻達也。いまいち突き抜けられないDREAMにおいて、気を吐いてきた二人。PRIDE武士道の血を引き、日本格闘技を背負ってそれぞれ戦ってきた二人。
印象的なのは、川尻が魔裟斗にK-1で戦った時。青木が川尻を応援してる姿は映像として残っていました。
青木は青木で渡米し、ストライクフォースでギルバードメレンデスと戦いました。日本格闘技が世界に通じるか!?という日本ファンの注目を集めた一戦は、青木のぼろ負け。「マジかよ・・・」となったのを覚えています。
日本格闘技を盛り上げる!とDREAMを背負って外敵と戦ってきた彼ら。しかしいづれも外敵に敗れ、また自身がホームとするDREAMも盛り上がりきれない。
そんな二人が直接対決する。これは、ファンからするとグッときました。興奮する、というよりは見届けないといけない、という試合。悲しみに満ちたタイトルマッチ。僕、那須川天心VS堀口恭司よりこっちの試合の方が感情移入しましたからね。興奮というよりは、使命感で見なければならない、という。
余談ですが、僕、社内のある新規プロジェクトのリーダーに任命されていろんな人巻き込みながら奮闘してたんですが、リリースイベントの日がこのタイトルマッチと被ってしまったんですよ。
で、泣く泣く見届けられなかったか、というと全然そんなことなくて、仕事を他の人に任せてさいたまスーパーアリーナまで馳せ参じました。まあ、それくらいこの試合は思い入れがあったということです。
なんつうか、送別会というか、そんな感じですよね。送別会、行くじゃないですか。別に行きたくなくても、行かないといけないよな、みたいな使命感あるじゃないですか。それに近かった気がする。
結果は残酷でしたね。秒殺。青木の秒殺。なんかもっと感情がほど走るような熱戦になるかと思いきや、川尻達也は近代MMAで国内屈指の実力を持っていた青木の相手じゃなかった、というのが現実でした。
夢の終わり
それ以降もDREAMは続いたし、戦極も日置発やマルロン・サンドロ、ジョルジ・サンチアゴみたいな本格派ファイターも生み出しました。
でも、結局二つとも息切れして消滅しました。両団体とも、明確な解散宣言も最終興業もありませんでした。次第に夢から覚めていった感覚で、PRIDEの時のような衝撃もなく、静かに熱が下がっていった、みたいな感覚でした。
僕自身がまだ若かったというのもありますが、僕にとってDREAMは青春でした。笹原さん大好きです。
DREAM出身のホナウド・ジャカレイやビビアーノ・フェルナンデスやエディ・アルバレスが世界でまだ最前線で戦っていること、嬉しく思ったりします。みんな、RIZINをPRIDEの後継団体と定義づけてますけど、DREAMがなければRIZINもなかったと思うんです。もちろん、戦極があったからあの頃の格闘技業界はなんとか業界として成り立っていたとも思います。
DREAMはちゃんと終わってないので(まだWebサイトもあるし)、公式でちゃんと葬式やってほしいなって思うんです。誰か総括してよ、と。青木真也選手がnoteでDREAM振り返ってるけど、あれは彼個人の話なのでもっと総括を誰かしてほしいなって。そっからRIZINを改めて紡いでほしいなあと、一ファンとしては思うのです。
イースト・プレス (2018-03-17)
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